水銀毒・鉛毒の歴史

時の話題で、

インフルエンザワクチンには、水銀=猛毒が使われている。

という風説を流す人がいる。

確かに、インフルエンザワクチンには

防腐剤として、チメロサールという水銀が含まれている。

但し、チメロサールは、人体にとって非常に有毒な

水俣病の原因となったメチル水銀とは全く別のものだ。

防腐剤に使用されているチメロサールは、

ごく微量でも強力な抗菌作用があり、また水に溶けやすく、

体外へ排出されやすい性質を持っている。

そのため約60年以上の長きに渡り、

ワクチンの保存剤として世界各国で使用されてきた。

メチル水銀・・・・・メチル水銀は体外へ排出されにくく、一度入ってしまうと
        長期間に渡って体内に残存することになる。
        またメチル水銀は脳に移行しやすく、脳に留まることで、
        運動失調や感覚異常など様々な中枢神経障害が現れる。

チメロサール・・・強い殺菌作用のある水銀化合物で、正式名を
         エチル水銀チオサリチルナトリウムと言う。 
         チメロサールは人体に入ると、エチル水銀とチオサリチレートに分解される。

エチル水銀の安全性については、現在のところ完全には

分かっていないのが現状。分かっているのが、

水に溶けやすく、体外へ排出されやすい。
ごく微量でも強い抗菌作用がある。といった特徴。

1990年代に、WHO(世界保健機構)から

「エチル水銀は腸管から盛んに排出されるので、

ワクチンの中のチメロサールにさらされた。

小児、成人における毒性を示す根拠は無い」ということが示されている。

予防接種には人体に無害なように、無視できるぐらいのチメロサールエチル水銀しか

含まれないよう計算されワクチンは作られている。

毒性比較では、エチル水銀<<<<<<<メチル水銀 となる。

同じく毒性比較で、三価クロム<<<<<<<<六価クロム と同じような関係だ。

参考ワクチン接種に関する意見書 by内海 聡

以上、ワクチン関連。

さて、今回のテーマは水銀・鉛である。

壌汚染対策法の中で、毒性のある元素は、

第二種特定有害物質(重金属等)に分類され、

    物質名       土壌溶出量基準(mg/L)

・カドミウム及びその化合物      0.003以下 

・六価クロム化合物       0.05以下

・シアン化化合物        検出されないこと

・水銀及びその化合物       水銀0.0005以下かつアルキル水銀が検出されないこと

・セレン及びその化合物                    0.01以下

・鉛及びその化合物                           0.01以下

・砒素及びその化合物                       0.01以下

・フッ素及びその化合物        0.8以下

・ホウ素及びその化合物                    1以下

以上9種類で、毒性の順(含有量基準の下限が小さい方が毒性大)に並べ変えると、

ホウ素B<フッ素F<六価クロム<セレンSe=鉛Pb=砒素As<カドミウムCd<水銀Hg<シアンCN となる。

尚、検出されないことは、含有量ゼロを意味しない公定法で検出されないということ。

土壌汚染で、頻出するのは、水銀<フッ素F<鉛 が多い。

 

有毒な、水銀Hgや鉛Pbは、長らく白粉(おしろい)として使われた不幸な歴史がある。

白粉(おしろい)は、歴史的に洋の東西を問わず、

清浄なもの・白いものを貴び憧れる観念から出発した。

塩化第一水銀は、甘汞:かんこうと呼ばれ、Hg2Cl2 という組成をもつ甘い物質だ。 

「鉛白」白粉は、塩基性炭酸鉛で、紀元前から存在していたが、

日本には奈良時代に、水銀白粉(塩化第一水銀:甘汞)とともに中国から伝来した。

鉛白の製造は簡単で、酢酸の蒸気と二酸化炭素を鉛に当てると、

鉛の表面が真っ白になり、それをかき取れば完成する。

 

平安時代には貴族の間で「蹴鞠(けまり)」が流行し、鞠は鹿の皮で作られるが、

これもかつては鉛白で真っ白に塗られていた。

日本には、上のように水銀白粉鉛白粉の2種類があった。

水銀白粉は透明感があり、鉛白粉は際立つ白さと化粧乗りの良さが特徴的だったとされる。

江戸時代には、水銀白粉は額に塗り、それ以外は鉛白粉が塗られた。

両方とも口に入らなければ無害だが、宮中では乳母が上半身(乳首)にも

白粉(甘汞・鉛白)を塗ったため、赤ん坊が水銀・鉛中毒になることも多かった。from鉛の文化史

江戸時代、将軍や大名に世継ぎの男子が誕生すると、丁重に取り扱われるのは当然だが、

側室が生んだ子であっても乳母が付き、乳母から乳を与えられて養育されていた。

現代の医学では、母親から初乳を与えられることで、乳児は母親から免疫力を受け継ぐとされている。

だが、そういう知識がない時代には、貴人の家では母親が初乳を与えることはなく、

免疫力のないまま育つため、江戸時代には将軍や大名の子の多くが夭折した。

また、古代より女性は化粧をしているが、

奈良時代に伊勢水銀(汞:みずがね)が発見されて、高貴な女性が用いるようになった。

その後、鉛を焼いたものに糯米(もちごめ)の粉末や水銀などを混ぜたものが

白粉(おしろい)として用いられ、19世紀末に無鉛白粉が作られるまで使用されていた。

現在では鉛や水銀の有害性は知られているが、

当時はそういう知識がなく、暗い照明の中で引き立つように厚化粧した。

また貴人の子に授乳する乳母は、乳房に化粧をしたとされ、

乳児は鉛や水銀を直接口にしたため、障害が現れたともされている。

江戸時代の貴人の骨や土葬の髪の毛などからは、鉛や水銀が高濃度で検出される。

from乳母から鉛や水銀を摂取した幼少時の将軍

歌舞伎役者など職業的に白粉を多用する人たちに水銀中毒が多発したと言われている。

from不思議な水銀の話 水銀鉱山は、現在の三重県多気郡多気町丹生である。 

今昔物語158で鈴鹿峠には、蜂を自由に操る「水銀商:みずがねあきない」が登場する。

fromあいの土山とは何ぞや

古代ローマでは、水道管は鉛製で、浴槽の内側も鉛が塗られていた。

ワインの抗酸化剤として、酢酸鉛が使われた歴史もあるローマ帝国における鉛中毒

鉛が原因でもたらされる鉛疝痛に関する最初の記述は、古代ギリシャのヒポクラテスによってなされている

古代ローマ時代は膨大な量の鉛が生産され、陶磁器の上薬、料理器具、配管などにも使われていたために、

ローマ人には死産、奇形、脳障害といった鉛中毒が普通に見られたと言われていた。

しかしこの件は、現在では俗説扱いされている。

かつて西洋では鉛は「灰吹き法」など、金・銀・銅などを製錬するための媒介としてもさかんに利用された。

古代ローマでも、貴族たちが鉛製のコップでワインを飲むのを好んだため、鉛中毒者が続出したといわれる

17世紀ごろから、ワインによる鉛中毒が論じられるようになってきたが、

当時はワインを甘くする目的で、酢酸鉛が添加されていた

例えば、ワインを愛飲していたベートーヴェンの毛髪からは、

後の調査によって通常の100倍近い量の鉛が検出されたことから、

その晩年にほぼ耳が聞こえなくなってしまった原因として、現在では鉛中毒が有力視されている

また、かつては、葡萄畑の農薬として、水銀ボルドー液が使われたこともある。ボルドー液

ガラスは、鉛含有量が多いほど、透明度や屈折率が上がるので、

ガラス工芸(クリスタルガラス・切子)によく使われた。

殺菌剤で代表的なものは塩化第二水銀(昇汞:しようこう)で、

1809年に組成が明らかとなりコッホによって殺菌力が認められた。

昇汞は16世紀には梅毒の治療に用いられたこともある。

 

水銀の毒性として、血中水銀濃度が上昇し、振戦(震え、とくに手指)、

口内炎、歯肉炎、精神不安定などの症状がみられる。

無機水銀には塩化水銀( : Hg2Cl2、HgCl2:甘汞、昇汞)・

酸化水銀(HgO)・硝酸水銀( : Hg2(NO3)2、Hg(NO3)2)・硫酸水銀(HgSO4)などがあり、

製造過程や熱処理の過程で蒸気や粉塵を吸入して発症する。

症状は金属水銀によるものに加えて、皮膚障害や腎臓障害が強い。

古代においては辰砂(主成分は硫化水銀:鮮血色をしている)などの水銀化合物は、

その特性や外見から不死の薬として珍重されてきた。

硫化水銀は近年まで、印鑑の朱肉にも使われた。

また、従来、寺社の丹塗りの柱は、辰砂を使っていた。

硫酸水銀(HgSO4:辰砂)は、特に中国の皇帝に愛用されており、

不老不死の薬仙丹」の原料と信じられていた(錬丹術)。

それが日本に伝わり、飛鳥時代の女帝持統天皇

若さと美しさを保つために飲んでいたとされる。from日本書紀

しかし現代から見ればまさに毒を飲んでいるに等しく、

始皇帝を始め多くの権力者が中毒で命を落としたといわれている。

水銀は、適量を用いれば新陳代謝を促す作用を持つため、

中国では丹砂から作った丹薬は不老長寿の薬として道士の秘術とされたが、

一方で永遠の生命を得るべく、この延命の薬をのみすぎて死亡した皇帝や貴族も多かった。

奈良の大仏には金メッキをするために大量の水銀アマルガムが消費された。

春日大社の丹塗りの柱や仏像のメッキに大量の水銀が使用され、

その蒸気を吸った人々の水銀中毒(水俣病)が多発したことで、

聖武天皇が遷都(廃都)を決断したのは、そのこと(環境汚染)が原因とも言われる。

 

万葉集 巻十四 3560 東歌

真金(まがね)吹く丹生(にう)のま朱(そほ)の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは

金を精錬する水銀の朱い土のように、言わなくても顔に出てしまいます。私が恋しく思うことで。

《万葉集》巻十四の東歌は、この精錬法をうたったものとされている。

中世以降、水銀は毒として認知されるようになった。

 

 

水銀の性質で、興味深いのは、他の金属と合金を作り易い事だ。

金・銀・亜鉛・カドミウムなどと合金を作り、水銀含量によって固体~ペースト状になり、

これをアマルガム(amalgam)と呼ぶ。(ギリシア語で柔らかい物質を意味するmalgamに由来)

近年まで、虫歯の治療(埋め物)に使われていた。

水銀を使った体温計は、2020年を最後に製造禁止となっている。

所謂「赤チンマーキュロクロム:エチル水銀」も、

傷口の消毒治療薬として、最近まで作られていた

 

毒殺の歴史には、砒素・トリカブト・シアン(青酸カリ)などが登場するが、

水銀や鉛は慢性毒性なので、あまり使われていない。

錬金術の歴史には、怪しい錬金術師が登場するが、

錬金術や毒物研究こそ、冶金や化学の発展に寄与貢献してきたのだと思う。

金精錬や銀精錬には、水銀アマルガムを使用したので、

鉱山の近くでは、水銀中毒・鉛中毒・カドミウム中毒が頻発した。

近現代の水俣病(有機水銀による汚染)足尾鉱毒事件(銅による鉱毒汚染)・

イタイイタイ病(Cdによる鉱毒汚染)・阿賀野川水銀中毒(第二水俣病)は、

その、極く一部でしかないのかもしれない。

また、現代でも、金精錬に水銀を使っているところも多い。

深刻化する水銀汚染、その大きな要因は「金の採掘」だった

 

 

かつて、山師(鉱山技師)が鉱山を見つける際、参考にしたのが、

金属を蓄積するコケやシダで、たとえばヘビノネゴザは鉛を、

ホンモンジゴケは銅を蓄積することから、鉱山発見の指標となった。

↑銅を蓄積するホンモンジゴケ

シダ植物の一種モエジマシダはヒ素を蓄積することが知られており、

環境浄化など、さまざまな産業への応用が検討されている。

↑ヒ素を蓄積するモエジマシダ

↑Cd、Zn、Cu、Pbを蓄積するヘビノネゴザ(新芽はコゴミと呼ばれる山菜)

例えば、ファイトレメディエイション:Phyte-Remediationとは、

植物を使った土壌汚染修復のことで、

土中の重金属を、ヘビノネゴザに吸収(リーチング)させてから、

根こそぎ掘り取ると、土中の重金属濃度が減ることを利用して、

環境基準以下になるまで、時間をかけて、

土壌汚染修復Remediationを行う方法である。

 

 

 

 

 

 

 

 

あいの風に吹かれて 過去ログ                               

国銅 by箒木蓬生         

水銀 wiki

からむこらむ その113〜その115

 

 

 

記:野村龍司