ゲームの理論

本日、2021.1.22の0:00に、核兵器禁止条約が発効したが、

日・米・英・仏・露やNATO加盟国及び中国は批准していない。

(ヨーロッパではNATO非加盟のスウェーデン・スイス・オーストリア・アイルランド

などは賛成し、批准が50カ国に達したので、90日後に発効した。)

❶日本が核兵器禁止条約を批准しない表向きの理由は、

日米安保条約だ。

同じ理由で韓・加・豪も非加盟。

❷日本は、国連で核兵器廃絶の動議を1994年に提出し、

核兵器廃絶決議を以来27年連続で署名している。

 

日本政府の上の❶,❷の意思表明は、一見、矛盾しているようだが

「ゲームの理論」で説明すると、矛盾しない。

つまり、核の傘に入ることは、核兵器使用の抑止力になるという考えであり、

日本が核を保有する可能性も否定していない。

これが、単にアタマで考えた理想や「べき論」とは違う「論理的で現実的な結論」だ。

 

 

以下、『ゲームの理論~タカ派とハト派』

ジョン・メイナード・スミスは、ちょっと異色の動物行動学者である。

1920年生まれの彼は、まずケンブリッジ大学で工学を学び、

第二次世界大戦中は航空機関係のエンジニアとして働いていた。

しかし大戦後、何を思ったのか彼は、

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの大学院へ入り直し、動物学を専攻する。

(中略)エンジニア出身の彼が、なぜまた動物学を

志したのかということについては定かではない。

しかし、その結果開拓された分野は画期的なものだった。

動物行動の進化については、血縁という観点から説明されるのがまず基本である。

例えば親が子を保護する行動、キョウダイやイトコがときには助け合い、

ときには裏切るという行動。

そしてその際、行動を決める重要なカギは

遺伝子をどれくらい共有しているか(血縁度)ということである。

しかし、この理屈を押し進めて行くと、共有する遺伝子の無い

アカの他人同士は相手のことなど顧みず、

徹底して利己的に振る舞うということになってしまう。

メスをめぐってオス同士は血みどろの争いをし、

どちらも相手の息の根を止めるまでは攻撃の手を緩めないだろう。

寝場所をめぐって争う二羽のメンドリは互いに頑として譲らず、

結局は夜が明けてしまうのかもしれない。

もちろん現実にはそうはなっていない。

アカの他人同士も案外協力や協調の関係をよく結ぶ。

そして、そういう態度や精神に対しては、「紳士的態度」とか

「譲り合いの心」、「友情」などの言葉が当て嵌められている。

なぜ、そのようなことが起こるのか?

この問題も実はチャールズ・ダーウィンが当時既に提起しており、

解決の糸口も若干掴みかけていたのである。

しかし、彼はまたしても生まれるのが早すぎたようだ。

この問題の解決には、メイナード=スミスという元エンジニアの頭脳と

1960年代のコンピューターの飛躍的進歩とがどうしても必要だったのである。

メイナード=スミスが非血縁者間の争いに適用した考えは、

ゲームの理論」と呼ばれるものである。

元々は国家や人間同士の利害の衝突の解析のために、

コンピューターの発明者であるジョン・フォン・ノイマンなどが考案している。

メイナード=スミスはその考えを発展させ、

何かをめぐって争っている動物(もちろん人間も含まれる)を

一定のルールのもとで得点を競いあっているゲームのプレイヤーとみなした。

そして、連綿と続く対戦の結果、どういう戦略をとるものが最終的に高得点を稼ぐのか、

あるいはどういう戦略をとっていれば間違いが少ないかということなどを探ったのである。

動物の種類は何であっても良いし、争いの対象は配偶者の所有権や

営巣場所、寝場所や餌などいろいろと考えられる。 

但し、動物の行動の進化については今や個体ではなく(ましてや集団や種でもなく)、

遺伝子に着目して考えるべきで、得点や失点も

遺伝子のコピーの増減に対応させるのが本当なのだが、

大まかには個体の利益で近似すればいいだろう。

ゲームの理論のごくさわりの部分を紹介しよう。

同種の動物が何かをめぐって争う場合、二つの極端な戦略を考えてみる。

一つはどんな相手とでも必ず戦い、余程の大怪我を負わない限り退却しないという

強気の戦略(タカ派戦略)、もう一つは威嚇や睨み合いくらいはするが

あくまで直接の争いは回避しようとする穏やかな戦略(ハト派戦略)である。

まず、タカ派同士がぶつかったとする。

互いに戦おうとするから、少なくとも戦いのために

浪費される時間とエネルギーに関しては相方とも等しく点を失う。

勝者は食物なりメスとの交尾権なり、とにかく大きな得点を得るが、

このように一方でかなりの大打撃を受け、非常に多くの点を失う。

次に、タカ派とハト派が出会ったとする。

タカ派は戦おうとするが、ハト派はすぐに退却してしまうので、

タカ派は労せずして大きな得点を手に入れる。

ハト派には得点はないが、すぐに退却するので怪我をすることはないし、

時間やエネルギーの損失も少ない。従って若干の損をするだけである。

では、ハト派とハト派の場合はどうか。

相方とも攻撃を仕掛けないので勝負は持久戦になるだろう。

勝った方は無論得点を得るが、威嚇や睨み合いのために

相当な時間とエネルギーを費やしており、その分についてある程度の点を失う。

負けた方もそれと同じだけの点を失うが、

これは戦って負傷した場合に比べれば遥かに少ないものである。

こうしてみると、タカ派はハト派をいとも簡単にカモにしているわけである。

何しろ相手は何の文句もなしに譲ってくれるのである。

タカ派はハト派を踏み台にして得点を荒稼ぎし、

その結果繁殖も有利になるので、急速に数を増していくだろう。

ところが、タカ派が増えてくると今度はタカ派同士の対戦が増える。

彼らは互いに潰し合いを始めることになる。

すると、その間隙を縫ってハト派という非暴力主義者たちが

着々と得点を重ね、勢力を盛り返して来る。

そうするとまたタカ派がハト派をカモにし……というサイクルが繰り返されるのである。

タカ対ハトの比は最終的にはどちらの戦略をとろうが

損得勘定は同じであるという点で釣り合い、事態は落ち着くのである。

尤も、実際の野性動物たちはこういう安定した状態にあることは稀で、

戦略の比は振り子のように揺れ動いていることの方が多い。

それに、それぞれの個体が一生同じ戦略をとり続けるのではなく、

あるときはタカ派として振る舞い、

またあるときはハト派として振る舞うという方がより現実に近い。

話はやや逸れるが、こういったことについて若干考えを押し進めてみると、

個体が「紳士的態度」を取ったり、「譲り合いの心」を発揮したりすることが

必ずしも立派なことではないということがわかる。

そういう行為は、その場合の彼(彼女)にとって

他の強引な戦略をとるよりもましだというだけである。

戦略モデルについては今や百花撩乱で、

解析はコンピューターを駆使して進められている。

ところで、ここで紹介した最も単純なタカ・ハトゲームの中には、

我々が是非とも注目しておいた方が良い教訓が含まれている。

それは、得点、失点の設定の仕方によって

安定状態におけるタカ・ハト比が簡単に変わってしまうということである。

特に、負傷した場合の失点を大きく設定すると、

平衡がハト派優勢の方にぐっと傾くということだ。

これは強い殺傷能力を持った動物の方がむしろハト派的で、

行動が紳士的であるというパラドックスを見事に説明している。

こういう動物は自分が負傷した場合の大打撃を恐れ、

互いに敢えて“武器“の使用を控えているのである。

かつてK・ローレンツ(野村註:オーストリアの動物学者)は

オオカミの騎士道精神を賛美した。

争いで分が悪くなった方が急所である首筋を差し出すと

相手の攻撃行動が抑制されるというあの話だ。

ローレンツは、これぞ種の繁栄、これぞ種の利益のための行動だと絶賛した。

彼はオオカミの一頭一頭が種が滅んでしまうことを懸念して

武器の使用を控えるのだと考えたのである。

しかし、ゲームの理論が示すところによれば、

オオカミは自分が傷つくのを恐れて武器の使用を控えるということになる。

儀式化された攻撃行動も、ひたすら自分が負傷したくないという、

最初から最後まで利己的な理由によって引き起こされているのである。

このことも追究すれば遺伝子の利己性に帰着するだろう。

ニワトリなどはしょっちゅう揉め事を引き起こして激しいつつき合いを演じているが、

そんなことができるのも彼らが大した武器を持っていないからだ。

メイナード=スミスはある論文の中で、動物の殺傷能力の大小と

争いの儀式化の程度との相関を論じているが、

その際、人間における通常兵器と核兵器の問題に言及することを忘れていない。

「核」による武装がかえって争いを回避させるという論には確かに一理あるのである。

 (竹内久美子「そんなバカな」P136~P144)

 

以下は、ジョン・メイナード・スミスの功績wikiより

生物学的な貢献としては、当時最先端の解決ロジックである

ゲーム理論を進化生物学にいち早く応用し、

これにより生物の進化や行動における戦略的な側面を

ダイレクトに捕捉することを可能にすると共に、

進化生物学・動物行動学の分析を非常に幅広くすることに成功した。

また、生物学上難問とされていた問題に対して多くの解を提供し、

数々の斬新な数理モデルの着想、問題が持つ仮定を浮き彫りにした。

この貢献は、進化生物学を始めとする

多くの生物学における分野を発展させる基礎となり、

また、研究の灯台として多くの問題を残した。

数学的な貢献は多数ある。

特に、ジョージ・プライスとともに数学的分析のロジックとしての

ゲーム理論における新しい均衡である「進化的に安定な戦略」 (ESS) を考案し、

ESSを多用する進化ゲーム理論を立脚させたことは重要である。

ESSは経済学にいち早く導入され、多くの経済現象に均衡解を与えるのに成功しており、

進化ゲームに恩恵を受けた経済学者にはノーベル賞候補と目される人間が多くいる。

心理学においてESSは学習理論に取り入れられ、大きな革新をもたらした。

その他にもESSはゲーム理論を用いる全ての分野に取り入れられている。

彼の受賞歴を見れば、その業績がどれほど重要であったかは一目瞭然であろう。

1991年から1993年までヨーロッパ進化生物学会の会長を務めた。

学会は彼の栄誉を讃え、ジョン・メイナード=スミス賞を1997年に設立している。

ノーベル経済学賞に長年ノミネートされていたとも言われており、

メイナード=スミスが死去した翌年のノーベル経済学賞はゲーム理論に対して贈られた。

 

 

 

記:野村龍司