蟷螂(カマキリ)と鮪(マグロ)と沢蟹(サワガニ)の繁殖戦略
カマキリの卵鞘と秋の空
カマキリの卵は、この姿で越冬する。カマキリ卵嚢集め(閲覧注意)
カマキリが孵化したときには、既に一人前の姿形をしている。
親と違うのは、サイズだけで、とにかく獰猛だ。
つまり、動くものを捕食するように、遺伝子にセットされている。
春の陽気で、一斉に孵化すると、早速、拡散していくのだが・・・
エサが、少ないと とにかく、動くものを見境なしに襲って食べる、
つまり、共食いをして生き延びる。
数を減らしながらも、身体のサイズを大きくすることが、喰われない為のサバイバルだ。
これは、カマキリ(やゴキブリ)などの昆虫に限った話ではない。
マグロやサンマなどの回遊魚は、常に集団で泳ぎ続ける。
回遊魚は(海水温が低い極付近の)プランクトンが豊富な海で孵化するワケではない。
産卵場所は、クロマグロ(本鮪)の場合、北半球では地中海とメキシコ湾、ミナミマグロ(インド鮪)の場合、南半球はジャワ沖といった具合だ。
・・・マグロ豆知識 ・魚はなぜ回遊するのかより。
そして、エサのない海も、豊富な海も、数万キロの距離を一生泳ぎ続ける。
以下、↓近畿大学水産研究所HPより・・・
マグロは、ふ化後10日までの初期減耗、ふ化後10~30日の共食いによる減耗期を経て、その後3ヶ月にわたって衝突多発期という成長過程を経る。
共食いによる減耗は、空腹状態を作らないように餌を大量に与えることで防ぐ事ができた。
しかし衝突多発期を回避する方策がなければ、完全養殖は不可能であった。
衝突多発期に、速いスピードで動き回る習性があるマグロは、生簀の網に激突して死ぬ。
この問題は、成魚用と同じ直径30メートルサイズの生簀に変えることで生存率が飛躍的に改善された。
また、夜間に電気をつけることで、車や漁船の光で起こすパニックによる衝突死を抑えることができた。
そうして生簀での稚魚の飼育技術が向上して、2002年、ついに人工ふ化から育てたマグロが卵を産んだ。
ここに完全養殖が達成された。
現在、ふ化した仔魚が稚魚に成長する生存率は3%程度であり、稚魚から若魚(ヨコワ)になり出荷できるまでの生存率は30%程度である。
つまりふ化した仔魚から出荷できる種苗までは約1%となる。
それに対し、マダイ(回遊魚ではない)の生存率は60%程度もある。>>>引用終わり。
↑写真:クロマグロ幼魚
卵から孵ったばかりの回遊魚の幼魚は、一時期このような姿になる。
口が巨大化して、お腹がぺったんこで、自分と同じサイズのものでも飲み込むことができる。
孵化後10~30日は、エサの少ない海域で、共食いの時期。 ※1
学生のころ、「回遊魚の不思議」(廃版)という本のイラストを見て、本当に魂消(タマゲ)た。
兄弟姉妹を食べて泳ぎ続けるために、形体が変化するというので、驚きながらも、納得した。
この時期を、減耗期と言うそうだ。
一度に数百万から数億の卵を産んで、そのうちの1%でも残っていれば、子孫は栄えるという繁殖戦略を採っている。
子育てをする 哺乳類・鳥類や、↓サワガニなどとは大きく繁殖戦略が違う。
哺乳類・鳥類・サワガニ・ハリヨ(針魚)などは、少なく生んで、育児をするが、
マンボウやマグロは、数億~数万の卵を産み落とすと、子は放任されて、勝手に育つ。
どちらの戦略が良いとか悪いとかいうハナシではない。
どちらも、現代に至るまで 何億世代も経て、成功している戦略だ。
※1
生き物の形態(カタチ)は、その機能をよく表している。
アリクイは「蟻喰い」
オニヤンマの成虫なら「滑空・俯瞰」
バッタは「跳躍」
芋虫は「食べて消化して排泄して成長」
カマキリは「捕食」
蚊は「飛翔・吸血」
マグロの幼魚は「喰うか喰われるか」
肥満した人は「脂肪貯蔵」
記:野村龍司
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