僕は、45才で失業して家に居た。
子供は、未だ義務教育期間で、女房がフルタイムで働いていたので、
朝、子供達と女房が、学校や仕事に行くと、ひとりでテレビを視る。
つまらない番組ばかりやっていて、飽きてしまう上に
小遣いがなく パチンコに行っても負けると分かっていて、やることが無い。
ヒマ潰しに、毎朝大文字山(銀閣寺・法然院の裏山)に駆け上がっていた。
テレビでは、消費者金融やカードローンのCM同様、保険会社のCMが矢鱈目につく。
「多額のCM放送料金を払うことのできる保険会社の仕組みは、いったいどうなっているのか?」
という素朴な疑問が湧く。
きっと阿漕(あこぎ)な仕組みに違いない。
失業しているから職を探すのだが、
残念なことに、僕にはプロフェッション(専門)というものが無い。
~30才ぐらいならまだしも、中々、採用してくれる会社がない。
自転車でハローワークに通って手ぶらで帰ってくるという、出口のない日常はつらい。
僕は、自他共に認めるEASYGOER(米国産馬名でもある)なので、
きっとそれまでのEASY GOINGな半生のツケが回ったんだろう。
そうこうするうちに、某外資系保険会社に職を得て、保険商品を売ることになった。
保険会社の営業職以外に、採用してくれなかったのだ。
1ケ月の新入社員トレーニング(研修)があって、保険商品を売れば、比例して給料は上がるのだが、
2ケ月連続で契約獲得がないと馘(クビ)だ。
そこで、保険募集資格という資格試験があるので、保険について勉強することになる。
(結局、3年程外資系保険会社に居て、アーサーバイオに入社したのは、さらにその1年後だった)
もしも保険がギャンブルならば、保険会社に勤務することは、
ギャンブルのテラ銭を獲る側に回る(胴元側になる;数少ないギャンブル必勝法の一つ)ということだ。
EASYGOER向きの仕事ではないか。
当時は、小泉政権下で金融規制緩和が行われ、保険商品の一部(外貨建保険)が銀行窓口でも販売可能になっていた。
リーマンショック(2008年9月)以前だったので外資の保険会社も、
日本企業の「護送船団方式⇒グローバルスタンダード導入」の掛け声を追い風に拡大中で、
金融機関の欧米会計基準「自己資本比率」や保険会社の「ソルベンシーマージン比率」などを盾に、
国内生保7社が、1997~2001年にかけて破綻した際には、すべて外資が破綻した国内生保会社を引き継いだ。
いわゆるハゲタカ外資だ。※1
保険会社が破綻しても、保険の既契約は、保険契約者保護制度において、
保険会社が破綻した時点の責任準備金等の90%までが補償される相互補助制度があるので、
外資は、破綻した保険会社の保険商品を引き継いで、責任準備金の残10%を、契約者に保証すれば、
幹部人材(総務・商品開発・新人トレーナー)の雇用も継続して、事業の継続が成り立つのだ。
保険契約者保護制度は日本の制度なので、外資はこの制度の下に、基金を預託するのを当初は拒んだという経緯があるが、
しかし、当時の大蔵省は、「郷に入りては郷に従え」と、国内に参入する外資も保険契約者保護制度に入ることを認めさせた。
保険会社には、客から預かったお金を、ローリスクハイリターン(greedyに なんらかの形)で運用する部門があるが、
日本国債の金利は、当時も限りなくゼロに近い状態だったし、
株式相場は、日経平均が1万円辺りで、現在ほどの活気がなかったので、
保険会社各社は、国内で目標の運用益を捻出するのが難しく、
外国に投資先を求めても、外国債で運用する事は、高金利の反面、為替変動のリスクを伴うので、
郵貯の民営化や低金利政策の結果、生命保険会社各社が国内で集めたお金を海外で運用するということは、
日本人の莫大な預貯金が海外に流出するリスクがあるということを意味していた。
保険は「相互扶助制度」であるという大儀名分はあるものの、
特定多数から集めたお金を一定の人に再分配する制度なので、思い切った分類をすると、ギャンブルの一種と言える。
返戻率(へんれいりつ)という「客から集めたお金を、どれだけ客に還元するのか」という率がある。
ギャンブルの胴元の例で言えば、
JRA(日本中央競馬会)などの公営ギャンブルは75%、宝くじは43.7% と発表されているが、
保険屋とパチンコ屋は、返戻率を公表していない。(←僕が、1ケ月の新入社員トレーニングの最後、講師に質問して返ってきた答え)
保険会社は金融庁の監督下にディスクロージャ(情報開示)として収支を発表しているものの、
ディスクロージャからは、返戻率(払戻保険金/払込保険料)を読み取ることができない。
返戻率で比較するなら、保険は公営ギャンブルと好い勝負だろう。※2
さもなくば、多額のCM料金を払ったり、国内一等地にビルを所有したりする事ができないと思う。
保険はリスク担保であって、ギャンブルではないという指摘も当然あるだろう。
保険とギャンブルとの大きな違いは、税金との関係だ。※3
サラリーマンは年末調整後に、徴収済源泉から保険料控除分が返って来る。
また、企業が従業員を被保険者として、掛け捨ての生命保険(※4 第一分野)を掛けると、解約返戻金が溜って行くが、
10年15年満期の生命保険は、満期解約よりも途中解約する方が返戻率が良く、
企業に入る解約返戻金の返戻率が、高くなるタイミングがある。
帳簿上、払込保険料は全額損金処理(課税対象外)だから、解約時には雑収入となる。
法人税を勘案すると、解約返戻金/(100-法人税率)=90%~100%強となる商品がある。
つまり、『帳簿上の利益を簿外に留保することができる』というのが、保険営業マンのセールストークだ。
この話には、前提条件が2つあって、
1つは、「企業の経常利益が、大きく確定している場合」
1つは、「返戻金曲線を管理して、最も溜まったタイミングで解約して、しかも、その雑収入を上手く(税を回避して)生かす事」※5
という2点が要件となる。
解約返戻金や死亡保険金を企業が受け取った場合、企業は独り占めしても良い。
被保険者にどれだけ配当(退職金や死亡退職金名目に)するかどうかは、各企業の規定(社内ルール)に従うことになる。
以上の話と為替リスクを説明できる人は、ファイナンシャルプランナー2級の実力があると思う。
和歌山毒物カレー事件では、従業員に掛けた保険金を経営者(保険契約者:保険料負担者)が受け取ったという話なので、その事自体に問題はない。
問題は死因で、状況証拠のみで殺人を立件したという前例のない事件だった。
※1ハゲタカ外資は、当時郵政民営化した後で、おいしい所を持って行くと言われていた。
しかし、結果は、民営化された郵政の資産は、外資の手に渡った訳ではない。//
※2
ギャンブルの場合、返戻率というよりもテラ銭の部分で控除率を言う場合が多い。
控除率なら、公営ギャンブルは25%、宝くじは56.3%
産業別売上高で生命保険業は全業種中3位だが、付加価値額で全業種中45位となる。(総務省・経済産業省統計)
遊戯業(パチンコ)が売上高―付加価値額で16位―29位なので、生命保険業はパチンコよりも生産性が低い業種だといえる。
アーサーバイオは技術サービス業に分類されるので、業種としては売上高―付加価値額で85位―78位。
※3
保険や宗教法人に優遇税制があるのは、彼等のロビー活動(立法府に影響力を行使する活動)の賜だ。
※4
保険商品には多くの種類のものがあるが、それらは第一分野、第二分野、第三分野の3つのカテゴリーに分けられる。
- 第一分野・・・人の生命や人生に関わる保険・・・・・・・・・・生命保険(死亡保険・養老保険・学資保険など)
- 第二分野・・・物に対する損害を補填する保険・・・・・・・・・損害保険(自動車保険・火災保険など)
- 第三分野・・・病気やケガの治療費用などを補うための保険・・・医療保険(入院・通院の保険)
※5
保険セールス営業マン・レディは、世の中に巨万(ゴマン)と居るが、解約返戻金曲線をExcelグラフで管理して、
企業に保険解約のタイミング迄アドバイスする営業マン・レディは1%に満たないだろう。
よしんば、その保険セールス営業マン・レディがファイナンシャルプランナー有資格者やMDRTであっても、
「保険募集人の収入インセンティブ」と「保険料出口管理」とは、馴染まないからだ。
そこに、複数業者の金融商品を比較してアドバイスをするIFA(Independent Financial Adviser)の需要はあると思う。
記:野村龍司