一寸の虫にも五分の魂

Even a worm will turn.      イーヴンナ  ワーム ウィル ターン

直訳:虫けらでさえも反撃してくる

日本のことわざでは、一寸の虫にも五分の魂

「worm」というのは、6本足の昆虫という意味のメカニックな形の:insectではなく、

線虫のような足のない、うねうねした感じの生き物のことです。

ミミズやヒルなどの環形動物もこれに含まれます。

1本の消化管が主な構成要素であると言えます。

釣りの疑似餌もワームといいます。

小さな脚がいくつもついていると「caterpillar」

「turn」には「回転する」・「方向を変える」・「変質する」などの意味がありますが、

ここでは、逃げると見せかけてくるりと向きを変えて反撃するというイメージです。

英語でも日本語でも、小さく弱い生き物でも自分なりのプライドを持っているのだから侮ってはならないという意味です。

あるいは、「窮鼠猫を噛む」ということわざもあります。

こちらの英語版は「Despair gives courage to a coward.(絶望は臆病者に勇気を与える)」となります。

現在、「ワーム」は、コンピューター用語として使われています。

コンピューターウィルスの一種で、自己増殖してコンピューターに被害を及ぼす危険なプログラムです。

侮るとひどい目に遭います。

 

ブレナーの慧眼が見出したのは、土壌中に棲む小さな「線虫」と呼ばれる生命体だった

 

 

 

細胞が単独で生活する単細胞生物から、複数の細胞が機能を分担して生活する多細胞生物へ。これが生命の進化における最大のジャンプだった。多細胞生物は受精卵から出発する。受精卵とは精子と卵子が合体してできたひとつぶの細胞である。その受精卵細胞が分裂を繰り返しながら増えていく過程で、細胞がそれぞれ個性を帯び、専門化を果たしていく。これが細胞分化である。その間、ゲノムDNAは細胞から細胞へとコピーされて受け渡されていく。コピー、つまり正確に複製されるということは、同じゲノムDNAが伝達されるということ。では、なぜ同じゲノムDNAを持ちつつ、細胞はそれぞれ違う働きを行いうるのか。それが多細胞化の最大の謎であった。

私たちヒトは、約60兆個もの細胞からできている多細胞生物。分化のプロセスは解析するにはあまりに複雑すぎる。しかも哺乳動物の場合、分化プロセスは母胎の内部で進行するため外部から観察することが難しい。そこで細胞分化の研究は、ウニやイモリの卵を使って調べられた。しかしそれでも多細胞化のプロセスは複雑で、解析は難航を極めた。

もっと細胞の数が少ない多細胞生物はいないものだろうか。1960年代の終わりごろ、早くも生物学の将来を見すえていた人物がいた。その名をシドニー・ブレナーという。

DNAの二重ラセン構造が発見されたのが1953年。その後、DNAの遺伝情報がRNAに転写され、ついでタンパク質に翻訳されるプロセスが急速に解明されていった。そんな頃、シドニー・ブレナーはすでに次のステップについて考えていたのだ。遺伝情報の基本的な流れは、たとえば大腸菌のような単細胞生物を用いれば解析できる。しかし多細胞化・分化のプロセスは多細胞生物を用いなければ解明できない。モデルとなる生物に何を選べばよいだろうか。

ブレナーの慧眼が見出したのは、Caenorhabditis elegans(カエノラブディティス・エレガンス)、略して、“シー・エレガンス”。それは土壌中に棲む小さな「線虫」と呼ばれる生命体だった。線虫は、寄生虫である蟯虫(ぎょうちゅう)に近い生物だが、シー・エレガンスは、寄生ではなく土の中で独立独歩、自活している。食物は土壌中の細菌。細い透明な身体をしており、体長は1ミリメートル程度。

もっともすぐれている点は多細胞生物でありながら、細胞の数が少ない、ということだった。細胞の数は全部で959個。1個の受精卵細胞がほんの10回ほど分裂すれば完成する(細胞の数が2の倍数でないことにはわけがある。後述)。

シー・エレガンスには、口も消化管も肛門もある。筋肉細胞も神経細胞も生殖細胞もある。それぞれ分化した細胞。匂いをたよりにエサを探せる。つまり嗅覚がある。棒でつつくと反対方向に逃げる。すなわち刺激に対する応答がある。シー・エレガンスは立派な多細胞生物なのである。

私も線虫を飼育したことがある。シャーレの中に薄く寒天を敷く。その上にまず大腸菌を培養する。これが線虫のエサ。そこへ線虫を放す。線虫は何とか肉眼で見える。小さな身体を波状にうねらせて進む。大腸菌を食べながら成長し、増殖する。

ブレナーとその仲間たちは、線虫を丹念に観察し、受精卵が分裂を繰り返しながら、それぞれの細胞が最終的に身体のどこの細胞に分化するか、その正確な系譜図を完成させた。不必要な細胞は途中で自殺プログラム(アポトーシス)が働き排除される。だから最終的な細胞数は2の倍数ではない。

これによってシー・エレガンスは、その名のとおり、エレガントなモデル生物となった。線虫を用いて分化の研究が推し進められることになったのである。(中略)

今日、彼の仕事は、生物学史上、最も重要な達成のひとつに数えられている。

以上、福岡伸一ハカセの生命浮遊引用

シドニー・ブレナーについて

シドニー・ブレナー (Sydney Brenner, 1927年1月13日 – )はイギリス人の生物学者。現在はアメリカで活動する。 線虫を用いたアポトーシス研究によりロバート・ホロビッツとジョン・サルストンとともに2002年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
>南アフリカ共和国のジャーミンストン生まれ。1960年代に登場した分子生物学の分野において、フランシス・クリックらとともに、翻訳における遺伝子暗号の解読をはじめとした独創的な貢献をした。
>その後、MRC分子生物学研究所にて線虫 C. elegans をモデル生物として用いた動物の発生研究を樹立し、神経系形成などを解明した。
>ブレナーはこの生物を用いてゲノムプロジェクトを立ち上げ、多細胞生物におけるゲノミクスの先駆けとなった。その後、トラフグのゲノム解読も手がけた。
引用元: シドニー・ブレナー – Wikipedia.

 

>>線虫を用いて(細胞)分化(プロセス)の研究が推し進められることになったのである

自殺プログラム(アポトーシス)が働く場合というのは、「おたまじゃくしのしっぽ」がそれです。

つまり、おたまじゃくしの成長に伴って、不用になったしっぽは、プログラムの過程でアポトーシス(自殺プログラム)が働いて消えていきます。やがて手が出て脚が出る。